パソコンの導入における行政と学校との協力

 

                                                               坂井 岳志*1

 

<概要>多くの大学、一般企業、研究施設において、情報のネットワーク化が不可欠になってきている。インターネットはそれを世界的な規模にまで広げてきた。小学校においても、パソコンの導入とインターネットを含めたネットワーク環境は必須の条件となりつつある。これらの環境を構築するためには、教育現場と行政の協力が欠かせない。一つの地域の例を元に、これからの行政のあり方、教育現場の協力の仕方等を検討してみたいと思う。

<キーワード>パソコンの導入、ネットワーク化,行政との協力

 


 

1.はじめに

 東京のS区は、パソコンを導入するのは最も遅れた区の一つであった。しかし、初めて導入した7年前、現場の教員の意見を取り入れるために、丁寧な手続きを経て、それを尊重する形で環境を整えた。その後も、現場の教員の意見を生かす形で再導入し、様々な形で現場の意見を取り込もうと努力している。しかし、問題もないわけではない。それは、行政という計画目標的な立場と、教育という実践現場の違いから起きる必然的なずれなのかもしれない。それをどのように乗り越え、さらによりよい関係を築くためにはどうしていったらいいのか、初期のコンピュータの導入から現在までの経過を追う中で検討していきたい。

 

2.初めてのパソコン導入

 10年ぐらい前からパソコンの導入が各地で進んでいた。しかし、その多くはDOSマシンと言われるものや、せいぜいwin3.1と言われるもので、CD-ROMさえついていなかった。

まだ未導入だったS区でも、行政の中から、パソコンの導入が遅れていることに危機感を持っている人が現れた。また自分のパソコンを持って仕事に活用している指導主事がいた。教育現場からは、小学校の視聴覚部等を中心に、パソコンを導入するように働きかける動きがあった。議員の中にも、他区に比べて導入が遅れている現状を問題視する人も出てきていた。それらの状況の中で、パソコン導入検討委員会が設置され、どのような形でパソコンを導入したらいいか検討することになった。

導入検討委員会のメンバーは様々な立場の現場の教員と校長、教頭、そして担当指導主事で構成されていた。そこでは、実際にどのような種類のパソコンがいいのか、またソフトはどのようなものを入れたらいいのか、周辺機器は何が必要か、部屋はどのような状態がいいのか、またマニュアルはどのようなものが必要かなど、様々な事を検討していった。また3校に異なるコンピュータを数台設置し、それぞれの長所短所を探った。行政は2年間、それに必要な環境を整えてくれた。また、導入検討委員会の結論を、実際の導入に生かすことを基本に提案を受け止めてくれた。検討委員会は各企業によるプレゼンテーションを設定し、メンバーによるハード、ソフト、サービス等の各部門の採点をまとめて答申した。その後、さらに導入検討機種、数種類の展示会を行い、一般教員からのアンケートを取った。最終的に95年に、CD-ROM付きのwin3.1と別OSのコンパチブル機が5年リースの形で導入された。

この第一次導入の際に課題だったことは、この導入そのものが、教育現場からの必要性と働きかけだけでは実現しなかったということだ。現場からの声を生かすシステムができていない。これはパソコンに限らない事だが。

このS区は、たまたま理解のある行政の人たちが様々な場所で支援をしてくれた。また、教育現場にも理解がある人たちが存在した。しかし、その人たちがいなければ、実現はさらに遅れていた可能性が高い。また、当時は、入札などはせず、行政との関わりのある企業のパソコンを選ぶ地域が多かった。行政担当者に関わりのある企業を採用する例もあった。縁故に頼らない公平な導入ということはとても大切だったと思う。

しかし、最も大きな問題は、新しい機器になじめずに旧来の手法にこだわる教員の保守性をどう打破するかということだったのかもしれない。これは現在も続いている。

 

3.導入後の維持管理

 コンピュータ導入後、ソフトを新しくしたり、消耗品を購入することが活用を維持するためにも大切なことだ。ソフトを検討する場合、ためしに購入し実際に使ってみてよかったら残りを購入するという形を取っていた。業者や行政と相談すると、ソフトの展示会を開いてくれた。それにより、無駄なく購入することができるようになった。

使用マニュアルは、教育委員会の主導でマニュアル検討委員会が設置され、独自の形式で、現場の教員が作成したので、分かりやすいものを作ることが出来たと思っている。しかし、それだけではパソコンは使いこなせない。導入研修も業者との契約の中に入っていて、講習会が行われた。しかし、ソフトの研修を業者がやるだけでは、教育現場でパソコンは活用されない。児童の学習に必然的に活用する場面そのものを提案できる現場の実践が重要になってくる。そしてそれらを集めたデータベースが必要になってくる。行政はそのような流れを見通しての仕掛けを考える必要があるのではないのか。

その後、S区では、1校に20台のパソコンを入れ、実践内容の充実と検討を行った。また全校の職員室に成績処理用のパソコンと校務処理用のパソコンをそれぞれ1台導入した。それによって、次第にパソコンそのものの有用性が教職員に浸透してきた。導入後の見通しを持つことは、大変重要で、機器を入れればそれで終わりと言う行政が多い中で、S区は長期的な展望を持って行政が支援してくれた。

しかし、それはいつまでも続く保証はない。行政の担当者は任期が短く、長くて3年程度で異動してしまう。要になっていた人がいなくなってしまうと、なかなか内容が引き継がれない。引き継ぐためには、柱になる基本方針とそれを行政の中で長期的に担当する教育的視野に立った組織が必要だ。現在の教育委員会の中に、教育ネットワーク担当の専門家がどうしても必要になる。

 

4.新しいネットワークの現場で

S区ではホームページの維持管理では厳重な条例を作成した。現在、ホームページそのものも、各学校にはおかれていない。全ての学校のホームページは、教育センターのサーバーに置かれ、そこの専門職員によって、児童の安全上問題がないか、個人情報が漏れないか、さらに表現に問題がないか等を専門の職員が検討し、全てクリアした内容が公開されている。そのため、リアルタイムに公開できる環境にはない。しかし、ウイルスの問題などに専門家が対応し、安全をサポートしている。また、全ての学校のシステム管理をセンターからリモートで行い、問題の解決に対応している。現在は、新規の導入が行われ、3年間のリースで新しい機器が動いている。また10メガの光ケーブルで結ばれ、各学校は高速なネットワークで交流できるようになっている。

 当然、現在のその環境でも課題は存在する。管理をする側は、安全を第一とするから、厳重な運用の方が好ましく、その立場で条例などの約束を作成する。行政としては当然なのかもしれない。しかし教育現場としては児童や教員ができるだけ使いやすい環境を目指す。その接点を考える権限のある立場の組織が存在しない。また、教育にとってどのような環境や状況が必要なのか、また児童にどのような力をつけるべきなのか、さらに教員が必要な力はどのようなものなのか等を、総合的に検討する組織がない。何が良くて、何がいけないのか決めたり、機器やソフト等の導入は、それらの長期的展望に基づいて決定されるものなのではないか。

 

5.まとめ

今後は、未来への展望を示し、さらに現場の希望をも生かし、また時代を見越した価値ある設定での導入が行われていくようにすることが大切だと思われる。現実に教育現場にとって有用な場面を目に見える形で一つ一つ実現していくことが重要なことなのだと思う。

 職員室や各教室をネットワーク化したり、中古のパソコンを導入するためには、行政との協力が欠かせない。実際に、これらのことを行おうとすると行政の方からクレームがつくことが多い。備品を管理する側からは問題があるのかもしれないが、現実的に台数が足りなかったり、ネットワーク環境がない現状を改善するために、現場が工夫する余地を残して欲しい。現状を改善する意欲を生かして欲しい。行政と教育現場の共闘の内容を具体化していきたい。

 


 

  *1 Sakai,Takashi : 世田谷区立千歳小学校 e-mail=tsakai@mef.or.jp