職員室のネットワーク化と校内情報の共有化

 

                                                               坂井 岳志・安池徹*1

 

<概要>多くの学校で、コンピュータやワープロが使用されるようになった。しかし、多くの場合、それらの情報は個々のパソコンに保存される。そのため、情報や作成物が組織に引き継がれない。そこで「職員室をネットワークで結び、校務分掌に合わせた共有フォルダを維持管理する」ことで、校内情報を共有化し、組織全体のものとして継続的に活用できる環境を構築した。

<キーワード>ネットワーク化,校内情報の共有化

 


 

1.はじめに

 世田谷区立千歳小学校は、児童数が800人、教職員数も約50人程度の世田谷最大の学校である。当然パソコンで打ち出さなければならない資料も必然的に多くなる。

毎年、作成する資料は、基本的にはどれも同じ形式で作られることが多い。そこで、決まった書式を専用のフォルダにしまっておき、それをネットワークを通して呼び出し、各自のパソコンから印刷をかけることのできる環境を構築し、作業の無駄と各自の作業成果を継続的に活用する仕組みを考えた。

 

2.ネットワーク導入のきっかけ

 職員室をネットワーク化しようと考えたのは、4年ほど前だった。職員室にある校務用パソコンが少なく、パソコンを使って仕事をする時期も、印刷も同時期に重なるため、順番待ちの状態がおこったことがきっかけだ。先生方は各自のパソコンを持ち込んではいたが、印刷機を使うためには、それが接続されたパソコンを使うしかなかった。

 

3.ハードの仕組み

 基本的なハードは各自の購入したノートパソコンだが、データをため込むサーバーに相当するデスクトップマシンを1台自作した。ここにはそれぞれ自分のマシンで作成した資料を集約する仕組みを考え、各自作成した資料を置いておくように提案した。ます、プリンタを共有する形を目指し、いわゆる「ピアトゥピア」でそれぞれのパソコンの共有化を行った。先生方のパソコンを、秋葉原や新宿で購入してきたカテゴリー5のネットワークケーブルとカード型のネットワークカード、そして通常のハブで結んだ。このときは6ポートと4ポートのハブ2台でまだ充分だった。ケーブルは初めは職員室の床にむき出しの状態で置かれていたが、ガムテープ等で簡易にまとめていた。しかし、机等を移動するときに引っかかる事もあり、電話等のケーブル用の専用カバーを購入して保護した。今年度も、共有プリンタの数を増やし、それぞれの用紙の大きさで使い分けるように提案している。

 

4.ソフトの仕組み

次に行事ごとのフォルダを作成し、そこに資料を置いておくよう提案した。しかし、一年目はお互いの資料の交換程度で、むしろプリンタの共有化がメインだった。しかしそれでもかなり好評で、先生方のパソコン購入が進んだ。また、職員室での作業を多くの教員が目にする事により、便利な部分を実感することができた。学級便りや学年便りは急速にパソコンに置き換わっていった。そして、ようやくプリンタ待ちの状態は解消された。

 ワープロソフトは一太郎で共通にし、データの整理等はエクセルの枠を作成し、式が共有できる仕組みを考えた。また、デジカメのデータやスキャナーから取り込んだデータを共有化するために、専用の画像フォルダを設定した。

 昨年は、校務分掌に合わせたフォルダを整理した形で作成し、そこに全ての担当者が保存データをしまっておく仕組みを提案した。また、「いろいろ枠」という様々な資料の枠だけの内容を保存しておくフォルダを作成し、先生方が全て最初から作業をすることを省略できる仕組みを考え実践した。この「いろいろ枠」は現在も様々な書式を新たに加え、校務実践の中心的な役割を担っている。

 

5.現在の機器の状態

その後、先生方のパソコン購入が進み、多くの教員がノートパソコンを職員室で活用するようになった。そこで、ネットワークケーブルが足りなくなり、増強することが必要になった。ハブは年ごとに増強していたが、全員が接続するには足りない状況になってきた。

たまたま、今年度、職員室の床上げ工事が行われることになり、床下に10cmの空間ができることがわかった。そこで電源とネットワーク配線ポイントを、それぞれ12カ所設定し、各学年全てが職員室ネットワークに同時に入れるように計画した。ハブは16ポートスイッチングハブ1台、8ポート4台を使い、全ての教員が接続しても余裕がある体制を整えた。ネットワークケーブルは、カテゴリー5のものを300m購入し、それぞれの学年に必要な長さを確保した。そこにカシメと言われる圧着用工具でRJ-45コネクターを取り付ければ終了。これは目のいい人なら誰でもできるので学校の教員で自作した。プリンタは、カラー1台とレーザー2台を、それを共有する形で活用している。

 

6.デジカメ資料の共有化

 最近は、各行事の記録で全てにデジカメを活用している。通常のカメラの記録はほとんど行われなくなった。また、児童にもデジカメを貸しだし、学習に必要な資料を作成するために活用している。それらのデータを、先生方は、学年便りや学校便り、職員室前の掲示、教室、ホームページ作成等に活用している。児童も、主に学習記録として、また発表資料として、そしてホームページ作成用として活用している。

デジカメの台数は15台、同機種を用意しているが、現在でも足りなくて先生方のカメラも動員している。それらで撮った資料を「2000年児童用写真データ」「2000年教師用データ」、「2001年児童用写真データ」「2001年教師用データ」というフォルダに保存し活用している。このフォルダ内の画像は、ネットワークでどこからも取り出すことができる。これは、先生方や児童にとってかなり有効で、年間を通してどのような学習を行ったのか、記録されていっている。しかし、現在の機種は動画も撮れるものだが、まだそれは多くは活用されていない。原因としては見せるに耐えられる動画ではないことが一番大きい。特に動きに弱く、小学校のような場所には向いていない。しかしMpeg4そのものが悪いわけではなく、取り込みのデータレートが低い性と思われる。

 

7.デジタルビデオの活用

デジタルビデオも現在3台ほど購入していて、それを活用して集会、クラブ発表、移動教室の報告、児童の映画作成、総合や社会、理科での学習等に活用している。今後はより簡易で分かりやすい編集ソフトが入ることで児童による動画資料作成が進むと期待している。またホームページにも動画による自己表現や学習内容の発表が行われるようになると思われる。これらの資料もネットワークで活用できるように共有フォルダにしまわれている。

 

8.現在の問題点

 現在、一番の問題点は、共有フォルダの資料の安全な形での保存だ。多くの児童や教員が使うということは、資料が削除されたり、フォルダを間違って別の場所に移動させる可能性もあるということだ。セキュリティを高めてしまうと活用がしにくく、基本的な対策としてはバックアップを取っておくしかない状況だ。現在はバックアップ用のパソコンを用意しておいて随時メンテナンス作業をしている。

 また、デジカメで撮った写真のデータが、ホームページにもって来るには巨大過ぎるという問題がある。印刷する場合も時間がかかりすぎる。そのため、写真データをフォルダごと小さくしてしまうフリーソフトを使用している。ただ、児童には少し難しいので、教員が事前に準備をしている。

 また大きな問題としてあるのは、ネットワーク化やパソコン購入の費用がほぼ全て自費による整備だということだ。教育活動に非常に大きな効果を持つ職員室のネットワーク化の価値を行政の方はぜひ認識していただきたい。

 

.おわりに

 職員室のネットワーク化と校務情報の共有化は、児童の作成情報のネットワーク化と並んで非常に重要な意義を持っていると考える。教室へのインターネットマシンの導入がここ数年で実現する方向の中、今後さらに切実な課題として浮上してくると思われる。行政や教育界の早急な検討を熱望している。