実験用電源装置の製作 警告

この装置は高電圧を扱います。場合により生命の危険が伴いますので、電気工作の知識がない人の試作はご遠慮ください。

 電気関係の実験をするときに、電池ではいろいろな電圧や大きな電流には対処できないので、電源装置が必要となります。一般的な電源装置は出力される電圧の範囲が限定されていて広範囲の電圧を使用するためには何台かの電源が必要でした。
 私は真空管もトランジスターも実験に使いますので両方とも使用できる欲張った電源装置を設計してみました。出力電圧は9V〜290Vという広範囲なものになります。
 出力回路以外の低電力用途にはほとんどの実験に使えます。

前面パネル

 私みたいな半分素人な人間がこのような電源を設計できるのには秘密があります。それは倍電圧整流回路というものです。入力される交流電圧の整数倍の直流電圧が得られます。倍電圧整流回路をつなげていくだけでどんどん電圧は上がっていくわけです。ですから入力電圧をある程度低く設定しておけば、等間隔で電圧が取り出せます。連続可変にはなりませんが、必要な電圧付近に設定する事ができます。ただし、取り出せる電流は倍数の逆数に減ります。
  右図の上が偶数倍用、下が奇数倍用です。
  この回路の場合、偶数型と奇数型のアースの位置が変わるので出力とアースと両方切り替える,2回路のロータリースイッチが必要になります。今回は手持ちの関係で2回路6接点の物を使いましたが、個人的には8〜10接点の物をお勧めします。その場合トランスの電圧は20V程度の物がよいでしょう。
  もし、スペースが許せば、それぞれ偶数倍と奇数倍の回路を作り、電圧を切り替えるようにすれば、ロータリースイッチは1回路のものでよく12接点くらいまでの物も手に入ります。
※正確にはきっちり整数倍にはなりません。その理由は整流用ダイオードに電流を流すと電圧が0.8V前後低くなります。これを順方向電圧といいます。

倍電圧整流回路
仕様
 使用する電源トランスは定格24V1Aのものです。秋葉原で1個100円で投げ売りされていたのを10個位買いだめしておいたものです。(持って帰るのが大変でしたhi)ところが電圧を選ぶスイッチが6接点のものしか入手できなかったので6倍までしか得られません。それでは物足りないので、強引にトランスの隙間にエナメル線を巻いて11Vの巻き線を作りました。それで整流回路の入力電圧が11Vと35V(11V+24V)の2種類を選ぶようにしました。
 最低電圧に9Vの三端子レギュレータを入れる予定です。9Vあればほとんどのトランジスタ回路の実験ができます。
  また、真空管の実験をするときに必要なヒーター電源として、もう一つ同じ電源トランスを使い、またまた6.3Vの巻き線を隙間に巻いて標準のヒーター電源としました。さらに空いている24V巻き線を使い一次側に直列にコンデンサをいれ、電流を制限しテレビ球のような中途半端な電圧の球も使えるようにしました。ただし、この方法は私が勝手に考えたもので理論的に正しいかどうかは検証しておりません。(できるだけの実力がありません)実験される方は充分注意してください。
 私の考え方はトランスの1次側巻き線と直列にコンデンサ(耐圧280VDC以上のフィルムコンデンサがよい)を入れるとコンデンサにより電流制限され、トランスの2次側には1次側の約4倍の電流が流れます。このときコンデンサの容量を適当に選べば、2次側の電流の大きさがコントロールできるのではないかということです。このとき心配されるのはトランスのインダクタンスとコンデンサで共振回路をつくり、予定の電流が流れなくなることが考えられますが、2次側の負荷が比較的重いためか、いまのところ大きな影響は出ていません。
 電流制限用コンデンサはほぼ倍数系列になっておりスイッチの組み合わせで0.22μFから17μFあまりまで切り替えられます。

回路図
作り方
 トランスの改造
  なるべくコアと巻き線の間に隙間があるものを選びます。まず、手元にあるエナメル線などを10回、隙間に巻いてみて1次側に100Vをつなぎ、電圧をテスターで測ります。そのときの電圧の1/10が1回あたりの電圧になりますので、何回巻けば必要な電圧が得られるか計算してください。私の場合0.2V弱でした。あとはすき間に必要回数巻くだけです。
 エナメル線は断面積1平方ミリメートルあたり2A程度を目安に太さを決めます。私は6V、1Aにしました。あまり電流を欲張っても1次側の電流にも限界がありますので電力はとれません。

 改造する気がなければ、20〜30Vと6Vの巻き線がある物、あるいは20〜30Vと6Vの2つのトランスを使ってもかまいません。

 整流回路はプリント基板かラグ板に組んだ方が作りやすいでしょう。
 電流制限用のスイッチとコンデンサは、スイッチの端子を単線で半田付けし、固定してからコンデンサの配線をします。
 出力端子はUS8ピンのコネクタを使いました。ここは使いやすい物を選んでください。

シャーシー内部


背面パネル
使用上の注意
●私は整流用のコンデンサをあり合わせで間に合わせたため470μFを使いました。実際にこの値では大きすぎ、高電圧から低電圧に切り替えてもコンデンサの放電が間に合わず、なかなか電圧が下がりませんでした。47μFで充分です。また、電圧を下げるときはテスターで電圧を測る必要があります。後で簡単な物でもいいから、電圧計を組み込めばよかったと思いました。
●電解コンデンサの耐圧は交流入力電圧の2ルート2倍(2.8倍)必要です。
●取り出せる電流は倍数の逆数になり6倍では1/6に減ります。
●この電源を使って音響関係(アンプ、ラジオ等)の実験をするとハムノイズが聞こえます。まあ実験用なので私は気にしませんが、気になる人はフィルタをつけてください。5H500mAのチョークと大容量で330WVの電解コンデサで大丈夫でしょう。ただし、チョークや高耐圧電解コンデンサは高価で体積と重量がありますので一回り大きく、かつ丈夫なケースが必要です。
 あるいはパワートランジスタを使ってリップルフィルタを組んでもよいでしょう。この方が小型安価にできますが出力をショートしたときトランジスタが飛ぶことがあります。リップルフィルタについては専門書をお読みください。
●ヒータートランスは無負荷で電流制限用コンデンサをつなげるとうなりを生じることがあります。無負荷のときはコンデンサをショートするスイッチ(直接100Vがかかる)を入れてください。
●ヒーター用電流制限コンデンサは実際にヒーター端子の電圧を測りながら調節したほうが安全です。
上の写真の説明
シャーシー内部
●左の紺色の円筒は倍電圧整流回路のコンデンサ
●右上の青い部品と下の黄色い部品とスイッチは電流制限用のコンデンサとスイッチ。
背面パネル
●左は出力コネクタ
●右は出力コンデンサのスイッチ