バンブー・クラリネット


バンブーサックス


 先日、ある吹奏楽団の宴会でサックスの人から次のようなはなしを聞きました。
 「友人と登山をしたとき、山頂で彼がオカリナを吹いていたので、自分も山頂で楽器を吹きたくなった。しかし、サックスは持って行けないので、釣り竿の切れ端にアルトサックスのマウスピースを付けて穴を開け、ミニサックスを作ってみた。」
 実際に私もその楽器を吹かせてもらったところ、それなりに音がでるので、私も作ってみようと思いました。私は竹を加工するのが好きなので、竹で試作したところ、なんとか2オクターブ以上の音域が得られました。構造は簡単ですが、マウスピースとトーンホールには微妙な調整が必要なので、製作には神経を使います。
 なお、このような楽器を「バンブーサックス」と呼んでいる場合が多いようですが倍音の関係上、クラリネットの方が適当と考えました。

1.材料
 竹:竹といっても多くの種類がありますが、大きく分けると男竹と女竹に分かれます。男竹は節がとがっていて、成長すると竹の皮がはがれ、(写真1)真竹とか孟宗竹(タケノコの竹)がよく見られる男竹です。女竹は節が丸みを帯びていてとがっていなくて、成長しても節に皮が付いています。(写真2)俗に篠竹とか矢竹という種類です。(雄竹、雌竹は一般的な分類である。)材料としては次の条件が満たされればどちらでも構いませんが。節間を長くとる場合は雌竹の方が有利かもしれません。
 @長さが33cm程度ほしいので節の間が36cm以上あるもの。写真3のように節の近く2〜3cmは内径が細くなっているので、たとえ節を抜いても、トーンホールの位置が変わってしまうので節は避けましょう。
 A内径が下の太い方で14〜16mm(外径にすると23〜26mmくらい)あるもの。内径が大きく変わるとトーンホールの位置や直径が変わるので作りにくくなり、、内径が大きくなると、マウスピース部分がくわえにくくなります。反対に細くなるとリードがはみ出ます。
 B,節から枝が出ていないこと。
 特にマウスピースになる部分から枝が出ていると、管が丸くないので加工しにくい。(不可能ではないが)
 C乾燥しているもの。(色が薄緑または薄茶色のもの、緑の物は乾燥が足りない。)乾燥していないと作業中に水分が抜けて竹が変形してきます。生の竹を早く乾燥させるには、電子レンジが使えますが、家庭用のレンジでは30cm弱のものしか入らないので、短くて良ければ使えます。長いものを斜めに入れても、中で回転しないと均等に加熱できないので一部が焦げてしまいます。加熱時間は600Wの電子レンジで1分程度ですが、含水率や肉厚、長さにより時間は変わってくるので、10秒程度を何回か繰り返した方がよい。目安は、乾燥すると水分が抜けて軽くなります。また、生の竹はさわると冷たいが乾燥した竹はあたたかい。その手触りの感覚で判断できます。加熱しすぎると、焦げてしまうので慎重に作業します。
 竹はホームセンターに行けば売っていますが上記の条件にあてはまる物となるとなかなか見つからないかもしれません。私は近所の川の土手に自生しているものを切ってきて、2〜3ヶ月乾燥してから使いました。少々曲がっていても構わないし、むしろ尺八のようで格好いいかもしれません。


 初めて作る人が失敗しないで一本作って完成というわけには多分いかないだろうから、高価な物でもないので、まとめて10本分くらいは入手しておきましょう。私は一応の形にするまでするまで4本失敗しました。
※自分で竹を切るときは秋から春にかけて切ってください。その理由は、その年に生えた竹は柔らかく、繊維が成熟しないうちに乾燥するとしなびてしまうことがあるためです。できれば2年もの以上の方がよいでしょう。竹の肌の緑色が比較的鮮やかだと新しい可能性が高いです。
 
※少し前までは、竹は色々な利用法があり、重宝な材料でした。ところが、世の中が変わりプラスチック全盛の時代になると、活躍の場が奪われ、今や手入れもされず厄介者となっている竹林があちこちにあります。(以前よく利用した竹藪が数年前グランドになってしまいました。)だから私有地に生えている竹でも一言断れば切らせてもらえるでしょう。日本の文化に根付いてきた竹を、もっと利用すべきでしょう。
 リード:これは音を鳴らす部分で、楽器店で購入します。だいたい10枚入って二千数百円〜三千数百円です。もし、身近にクラリネットやサックスを持っている人がいれば一枚分けてもらった方が安上がりです。
 リードには種類がありクラリネット用、アルトサックス用、テナーサックス用のいずれかであれば使えます。ここではバンドレンというメーカーのアルトサックス用の3番を使いました。「3番」というのは堅さで、新しく買うなら2.5か3番が無難です。
 リードは葦(あし)を薄く削ったものなので、非常にもろくデリケートですので、取扱には十分注意し、使わない時には外して、ケースに入れておくようにします。

※テナーサックス用のリードを使った場合、楽器によっては長すぎて左手の親指と干渉することがあります。この場合はリードの下を切りつめてください。
 ホースバンド:ガス管やホースが抜けないように止めておく部品です。これはリードを止めるのに使うので、竹の直径に合った物を買います。ホームセンターで100〜200円。もし手に入らなければ丈夫なひもや、ゴムバンドでしばってもつかえます。(写真4)


※よくねじを締める時に、思いっきり力ずくで締める人がいますが、これではねじや本体がが壊れてしまいます。ねじの目的を考え、部品が充分止めることができる強さで締めること。この場合はリードが動かない程度に締めればよい。

2.工具
 のこぎり:目の細かい物がよい。もし、なければ金鋸の歯でもよい。目が粗いと竹の表皮がはがれ仕上がりが汚くなったり割れたりします。
 小刀(カッターナイフ大):小刀の方が歯がたわまず、よく切れ使いやすい。よく研いでおくこと。
 カッターナイフ小:なるべく先の細い物。主にトーンホールを広げたり、修正に使います。
 ヤスリ(サンドペーパー):棒ヤスリだと幅3cm以上の物、サンドペーパーだと粗さ180番くらいのもの。 (写真5)
 ハンダごて:60W程度のもの。 トーンホールを開けるのに使います。ドリルだと竹が割れる可能性が高くお勧めできません。ない場合はキリでやさしく穴を開け、カッターナイフで広げる。

 チューナー:音程を調整する時に必要で、楽器店で3000円程度からあります。特に正確さを要求しないのであれば、ピアノやキーボードなど基準になる楽器があれば結構です。(写真6)
3.作り方
@ 自然の中から取ってきた竹は汚れているので、たわしを使ってよく洗います。
A 直径が細い方の節のところがマウスピースになるので、余分な部分を小刀で削り、丸くします。最後にヤスリで仕上げ、なめらかにします。(写真7)
B 節の方を斜めに切り落とす。長さはリードの長さ程度。高さは竹の半径くらい。
 最初、のこぎりでおおまかに切り、小刀で削ってから、最後にヤスリでたいらにする。このとき斜面に少しでも凹凸があるとリードとマウスピースの間に隙間ができ、音が出ないので注意深く作業する。(写真7,8,9)
C リードとマウスピースの間に隙間をつける。節がある方を長さ1.5cm、高さ1o程度、写真10のように慎重に削ってください。この形状は非常に重要ですので、やすりで、少しずつ慎重に削ります。時々リードを当てて、吹いてみて音が出るようにすしますが、この隙間が一番難しく、多分なかなか音が出ないと思います。かん高い音でも出れば成功間近です。クラリネットやサックスのマウスピースを参考にして根気よく作業しましょう。(写真10)失敗したら、また平らに削り、やりなおします。
 リードを締めるバンドの位置で音の出方が変わります。音が出やすいバンドの位置も確認しておきましょう。


D 写真3のように、竹の内部には薄皮が張り付いているので、紙ヤスリを棒に巻いた物などで取り除いてください。これを取らないと鳴りにくい音がでることがあります。

※これからの作業は「切りすぎ」「削りすぎ」は失敗につながりますので慎重に作業しましょう
E 運良く音が出ればチューナーや楽器を基準にして出ている音を確認します。たぶん「シ」や「ラ」の音が出ていると思いますが、「ミ」や「ファ」の音が出ているようだと、高い倍音が出ているので、もっと低い音が出るようにマウスピースを調整します。
 予定通りの音が出たら「ド」の音が出るように少しずつ短くしますが、切りすぎると失敗になるので注意しましょう。(失敗した時のリカバリーの方法は後述)ここでは取りあえず335mmとしておきます。


F いよいよトーンホールをあけます。これを失敗すると今までの努力が水の泡になるので以下の作業は慎重におこないましょう。
 トーンホールの位置と番号は右図のとおりで、上がリード側です。
 下図を参考にしてはんだごてで穴を開けますが、開ける前にいらない竹で練習しましょう。はんだごてを当てて数秒で穴が開き始めますが、貫通する時、勢いで反対側まで穴を開けてしまうことがあるので、管のなかに濡れたボール紙を入れて防ぎます。
 トーンホールは下(8番)から開けていきますが、最初は小さめに開けてください。ただし、最初に全部あけるのではなく、8番をあけて音程調整したら7番を空けるようにしてください。
 4番と8番の穴は小指で押さえるので、押さえやすいように1cm程度横にずらします。(自分に合わせてください)


トーンホールの位置と直径 位置は下端からの距離
番号 0 1 2 3 4 5 6 7 8 単位
割合 位置 61 68 61 54 46 38 30 24 15
C管 位置 204 228 204 181 154 127 100 80 50 mm
直径 6 4.5 6.5 7 6.5 7 6 7.5 9 mm
G管 位置 146 164 146 130 110 93 73 60 36 mm
図1
4.音程の調整
※音程を調整する場合重要なのが、息の強さとリードをくわえる強さ、リードをくわえる位置です。これらが一定していないと半音くらい平気でずれます。この点は演奏できる人にはかないません。慣れるしかないです。
 音程の調整が第二の関門で、トーンホールの位置と直径は管の太さ、肉厚に影響されます。ですから上の表はあくまで参考だと考えてください。
半音の音程を気にすると調整が困難になりますので運指で調整しましょう。
8番を例にとると・・・・
@トーンホールを表の直径の7割位の大きさに開けてから「レ」の音を出してみて低い場合は上の方に穴を広げます。
A高い場合は下の方に穴を広げます。
B音がこもる場合は位置は変えず直径を広げます。
削る量は1回0.2o〜0.5mm位で、調整の終わり頃にはもっと少なくなりますが、慣れてくればある程度は大胆に削れます。しかし、調整でこの楽器の価値が決まるので、ていねいに作業しましょう。

5.この楽器の性格
 音色はクラリネットに近い甘い音がします。どんな管楽器でも同じですが、音程を正確に出すには練習が必要でしょう。特に高い方は、うまくできて慣れれば2オクターブ以上出せますが、リードのくわえ方で半音くらい平気で音程がずれます。
 私はサックスやクラリネットは吹かないので、マウスピースの形状については自信がありません。もっとよく鳴る形状があると思っています。できれば実際に吹ける人に研究して、おしえてもらえると助かります。
6.竹が短い場合
 もし、短い竹しか手に入らない時や、失敗して短くなった時は、そのまま縮小して作ることができます。その場合、全部のトーンホールを押さえた時の音(最低音)がドより高くなります。ただ、トーンホールの位置が少し上にずれるので図2のG管の値を見てください。もし、合奏の予定がなければ最低音は適当に選んで構いませんが、ファ、ソあたりに調節しておけば、少しの練習で他の楽器と合わせられでしょう。この場合トーンホールの位置と直径は上記の値より調整が必要でしょう。
 
7.サックスとクラリネットのちがい
 サックスもクラリネットもリードの振動で音を出します。両者の構造上のちがいは管の形状で、サックスは円錐管、クラリネットは円筒管です。このちがいは倍音に現れ、オクターブキーを押すとサックスは文字通りオクターブ上の音が出ますが、クラリネットはオクターブ+5度上の音が出ます。つまりドの運指をして左手の親指を少し開けると高いソの音が出るため、この楽器はサックスのリードを使ってはいますが、円筒管なので倍音はクラリネットと同じです。
 ですからこのような楽器を「バンブーサックス」と称している場合が多いのですが(語呂もいい)私はあえて「バンブークラリネット」にしました。
8.練習
 この楽器を作ることと、吹けるようになることを比べると、作る方がはるかにやさしい。演奏するためには充分な練習が必要になります。詳しい練習の方法は経験者に聞くか、サックスやクラリネットの教則本を読んでください。
 経験者が初めてこの楽器を吹くと初心者に比べ@音がすぐ出るA音程がいいB高音まで出る、のですぐ簡単な曲くらいは吹けるようになります。

 右の運指表は楽器によって異なることがあります。調整の結果によって半音や2オクターブ目は調節する必要が出てくる場合があります。3オクターブ目は自分で見つけてください。うまく作れば初心者で「ミ」位まででます。
 






参考ホームページ
http://members.jcom.home.ne.jp/0540405901/sax2/index.htm
作り方と運指がていねいに解説されている。大変参考になりました。但し太い節がある竹を使っているのと、テナーサックスのリードを使っているところが違います。
http://www2.yamaha.co.jp/u/naruhodo/index.html
 クラリネットだけでなくいろいろな楽器の原理が詳しく解説されています。
運指表 ○=開 ●=閉 △=半開
ファ ファ
0
1
2
3
4
5
6
7
8
ド# レ# ミ# ソ# ラ# ド# レ# ミ# ソ# ラ#
0
1
2
3
4
5
6
7
8